このような事態は、これまでは考えられなかったことだ。
大阪府という一地方で提案された条例案に対して、各方面から反対運動や反対アピールが起こるなんて事は。
これは、橋下徹前大阪府知事や大阪維新の会が提案した「教育基本条例案」が大阪だけの問題ではなく、日本の今後の教育のあり方、ひいては地方自治や国のあり方そのものに大きな影響を与えることになるからだ。
橋下前知事は「政治は独裁だ」といってはばからない。ファシズムをもじって「ハシズム」という言葉まで生まれている。
彼は知事就任当時、「大阪府は倒産寸前の会社」と言って府職員の給与を削減し、さまざまな福祉を削ってきたが、3年間に任期の中で結果的には赤字を増やし、今や大阪府の負債は6兆円を越えている。
大阪府の財政は黒字と言い張っているが、それは地方自治体では府債などを発行して得たお金も収入として計上できるというからくりを利用しているに過ぎない。借金を「収入」にして、見かけ上「黒字」にしているに過ぎない。
橋下前知事は辞任の挨拶で、大阪府を「優良企業」とし、職員の努力を褒め称えたが、そんな嘘を簡単に言える人間に、政治を任せることができるであろうか。
しかも、そういう言葉とは裏腹に「職員基本条例案」で、府職員をがんじがらめにする条例案を平気で提案させる男である。
もう、橋下徹は政治の世界から消えてもらうことが、大阪府民、大阪市民、ひいてはこの国のために重要なことなのである。だからこそ、多くの方々が橋下徹に対する反対の包囲網を張っていっているのである。
紹介する「大阪教育基本条例反対アピール運動」は、さまざまな分野で活躍されている作家や学者、芸術家の方々が賛同人として名を連ねている。
このことからも、この条例案が大きな問題を抱えていることがよくわかる。
以下に、アピール文の全文を紹介したいと思う。
大阪府教育基本条例案に反対します
私たちは、「大阪維新の会」が大阪府議会に提案している教育基本条例案について、大阪にとどまらず日本社会全体にとって見過ごせない問題であると考え、このアピールを発表することにしました。
私たちは何より条例案が、学校教育を知事及び議会の直接的な支配下に置こうとすることに強い危惧を覚えます。条例案によれば知事は、「学校における教育環境を整備する一般的権限」をもち、府立学校に至っては「教育目標」を設定する権限まで委ねられています。さらに、知事の目標に服さない教育委員の罷免、教職員への厳しい処罰などの教育への権力統制の体系が盛り込まれています。
人間を育てる教育には、教える者と教えられる者との、自由な人間どうしの魂の交流が不可欠です。また、子ども一人ひとりの現実に即した、教員や保護者、子どもを支える多くの人々の知恵と判断が尊重されなければなりません。知事や議会が教育上何が正しいかを決定し、それに異議をとなえる者を排除していくことは、教育の力を萎えさせ、子どもたちから伸びやかな成長を奪うものです。
しかも、学校教育を知事や議会の直接的な支配下におくことは、憲法と法令に抵触します。教育基本法第十六条は「教育は不当な支配に服することなく」としていますが、この文言は、時の権力が軍国主義教育をすすめた過去への深い反省のうえに定められた、日本の教育の大原則です。その結果、地方の教育行政は首長が指揮監督する一般行政から分離され、教育委員会がつくられました。
教育委員会の実態やその行政に不十分さがあることは私たちも知っています。しかしその解決は、教育委員会の民主的な改革に求められるものであり、知事らによる直接的な支配となれば不十分さはますばかりです。
私たちはさらに、「維新の会」の政治的な手法に危うさを感じています。いったん選挙に勝ったことによって、あたかもすべてを選挙民から白紙委託されたように振る舞うことは、ファシズムの独裁政治を想起せざるをえません。多くの方々が力をあわせ、大阪府教育基本条例案やそれに類する計画をとめ、子どもの伸びやかな成長のために考えあい話しあい、できることから行動していくことを訴えます。
この反対アピール運動の「呼びかけ人」には、以下の方々である。
【よびかけ人】
池田 香代子(翻訳家)
市川 昭午(国立大学財務・経営センター名誉教授)
尾木 直樹(教育評論家)
小野田 正利(大阪大学教授)
小森 陽一(東京大学教授)
佐藤 学(東京大学教授、日本学術会議会員)
高橋 哲哉(東京大学教授)
竹下 景子(女優)
野田 正彰(関西学院大学教授)
藤田 英典(共栄大学教授、日本教育学会会長)
他に賛同人として、62名の方が名を連ねている。現代の日本の各分野で活躍されてされている方々である。その一部を紹介したい。
【賛同者(一部)】
浅田 次郎(作家)
阿刀田 高
安斎 育郎(安斎科学・平和事務所所長)
池内 了(総合研究大学院大学理事)
石坂 啓(漫画家)
内田 樹(神戸女学院大学名誉教授)
梅原 猛(哲学者)
永 六輔
小山内 美江子(脚本家)
小中 陽太郎(日本ペンクラブ理事、星槎大学教授)
斎藤 貴男(ジャーナリスト)
品川 正治(経済同友会終身幹事・一般法人国際開発センター会長)
杉 良太郎
妹尾 河童(舞台美術家・エッセイスト)
高畑 勲(映画監督)
高村 薫(作家)
辺見 庸(作家)
山田 洋次(映画監督)
そうそうたるメンバーである。このような方々が、一地方の条例に反対を表明するということは、今大阪で起こっていることは、日本という国の未来にも関わるだからである。
11月27日(日)に行われる、大阪府知事・大阪市長のダブル選挙は、大げさでなくこれからの日本という国のあり方を問う選挙でもある。「政治は独裁」という勢力を認めるのかどうか、その1点で有権者の良識が問われるものになる。
大阪府民、大阪市民の常識ある判断を期待する次第である。